
TCJは、いま世界各地の日本語教育現場で見られる、文化や習慣から生じる摩擦を相互理解に変えるために、教室を単に日本語を教える場所とは考えていません。多くの国の外国人学習者と養成講座受講生たちが、一同に集い交流できる文化の交差点と位置づけています。
わざわざ遠い外国に出かけなくても、TCJでは、真の国際交流を体験し、異文化に出会うことができます。また、日常的な外国人との交流以外にも日本語教師養成講座のカリキュラムには「日本語教師のための現代史」などがあり、派遣先の歴史を学べる授業が用意されています
海外の教育現場で実際に起きた、ひとりの日本語教師(女性)のエピソードを紹介します。彼女は、まず日本で日本語教師養成講座を80時間程受講。その後、マレーシアのとある日本語学校へ派遣されました。
と、ここまでは良かったのですが、日本での生活習慣のままに念入りな化粧を施し、肌を露出した服装で教壇へ。ある日、見かねた校長が「もう少し化粧を薄くするように」と注意すると、その女性教師は学校を辞めて帰国してしまったのです。
女性教師はマレーシアのことをどれだけ学んでから出発したのでしょうか。マレーシアはイスラム国家。女性教師の化粧と服装が、学生にどんな印象を持たせたかは容易に想像できます。外国で暮らすなら、その国の文化を尊重し、理解し、サバイバルできるだけの自信を持った上で出発しないと、双方に深い傷跡を残すことになりかねません。
このケースでも、彼女がその国の宗教観を少しでも理解していれば結果はちがっていたはずです。派遣した日本語学校も、教えるテクニックだけでなく、適応力に関しても充分な指導をするべきだったのです。
この一件は、マレーシアの学生に日本人のあるイメージを固定化させました。ともすれば戦前の日本がアジアや太平洋上の国々で行っていた日本語教育、つまり一方的に日本の文化や価値観を押しつけた歴史を彷彿させたかもしれません。

国内の日本語学習者の多くはアジア地域から来ています。彼らがそれぞれの国の学校教育で学ぶ現代史には、日本の存在が必ず表現されています。それが必ずしも肯定的なものではなく、むしろ侵略された側の怒りに満ちたものという事実を、私たち日本語教師は知らなければならないでしょう。
さらに、わが国では欧米との歴史に時間を割いても、アジア関係史は軽視される傾向にあります。「日本の負の歴史をわざわざ学校で教えることはない」との主張さえあり、結果として日本人教師と学習者との間に大きなギャップを生んでいるのです。
そこで、TCJでは学習者との相互理解を深めるために、授業の一環として「近代アジア史」などの講座を開設。全体のカリキュラムを通して、社会性豊かな自立した国際人育成に取り組んでいます。